ウェルナー・ヒンク
& 佐々木 秋子がリサイタル

「音楽の友」2009年1月号 《今月のRondo》

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ウェルナー・ヒンク & 佐々木 秋子がリサイタル

「音楽の友」2009年1月号 《今月のRondo》

ウェルナー・ヒンク(vn)& 佐々木 秋子(p)デュオ・リサイタル

ウィーン・フィルから運ばれたヴァイオリンの音色

Photo 2625.jpg2008年8月末をもって、ウィーン・フィル第1コンサートマスターとしての活動に終止符を打ったウェルナー・ヒンク。室内楽や後進の指導で更なる活躍が期待されるが、そんな新しい舞台の幕開けにふさわしい、珠玉のデュオが誕生した。

11月1日にトッパンホールで行われた演奏会では、ピアニストの佐々木秋子と共演。彼女は08年だけでも、ウィーン・フィル首席クラリネット奏者ペーター・シュミードル、9月に初来日したドイツの実力派マンデルリング・クァルテットと共演を重ね、各奏Photo 2658.jpg者の音色や音楽性に合った、知的で誠実なピアノを奏でてきた。これが初共演となるヒンクとも、彼の柔らかく香しい美音を一度も遮ることなく、モーツァルト(第33番&第40番)とベートーヴェン(第2番&第5番《春》)の名作ソナタに、美しい輪郭と瑞々しい潤いをもたらしていた。親日家で知られるヒンクは毎年のように来日しているが、私の記憶する限り、技術的にも音楽的にも、ここ数年で最良の出来だったと思う。作品を深く愛する二人の芸術家が、淡々と寄り添いながら醸し出す音楽は、決して誇ることなく、慎ましく穏やかで、気品に満ち溢れていた。それは、会話のようでもあり、時に思わず微笑んでしまう。この二人ならば、ベートーヴェンの全曲演奏はもちろん、92年に急逝した彼の同僚ヘッツェルが最晩年に残したブラームスのソナタに匹敵する名演を奏でるのではないか。そんな期待を心に描いて、幸せな気分で会場を後にした。

Photo 5049.jpg(2008年11月1日 トッパンホール,飯田橋)