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2010年7月

佐々木 秋子 室内楽シリーズ ~musizieren~Vol.IVとして、共演者に気品と実力を持ち合わせた素晴らしき音楽家を迎え、室内楽の宝ともいえるベートーヴェンの大公トリオをメインに、前半はピアノ・ソロ、デュオといったプログラムを企画した。
 1980年頃に本当に趣味の良い室内楽の時代は終わってしまったのではないか?。近年は、一流と言われる演奏家でさえ、悲しいかな!個性を前面に出して他者との差異化に励むあまり、思い入れたっぷりの不快なフレージングで自己を主張し作曲家の意図するものを打ち壊してしまう。また、細かい技巧を誇示するために熱心でいかにも高度なメカニックを見せつけようとする者、はたまた誰も思いつかないような奇抜な解釈を演じて大芝居をみせる者など…今や溢れかえっている受け狙いとしか思えない音楽を耳にする度に、いつも絶望的な気分になる。
eha0008-009.jpg このせわしない時代、ゆったりとした大切な自分の時間にいつも日常的に親しむ事ができる音楽は聴けなくなりつつある。美しい夕暮れ時に毎日お気に入りの美味しい紅茶を飲むのと同じような感覚で、安心して浸ることのできる音楽をいつも求めている音楽愛好家はもはやいなくなってしまったのだろうか?
 現在失われつつある品格のある音楽。それは、音に対する敏感な感覚と作曲家の想う深い尊敬や端正な構成美から生れるいずるものであるが、今回この3人の音楽家のリハーサルを聴くと、センスの良い・高貴な志を持った芸術家が同じベクトルを持ち、互いに寄り添って誠実に名曲を紡いでいく時、そこには忘れていた一番大切な何かが起こっている。そこで生まれゆく夢のような時間を共有してほしいと願う。
 本当に趣味の良い聴衆は、このような演奏を心から求めてやまない!と言われるようなデュオ・トリオとして成長し続けてほしいと思う。

初回

小林功によるJ.S.バッハの世界~『平均律クラヴィーア曲集 第1&2巻』


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小林功と始めて会ったのは、彼がまだ芸大の大学院生のころだった。当時、彼が住んでいた代々木のマンションに遊びに行っては,よくバッハの小品を弾いてもらった。
小林が新しく購入したピアノは、焦げ茶色をした旧東独製オーガストフェルスターで、温もりのある優しい音色を持った木工品のようだったのをよく覚えている。

eha0038-003.jpgその後、彼はエディット・ピヒト=アクセンフェルト女史のもとで学ぶためにドイツのフライブルクに留学し、私はあるドイツ外務省の外郭機関で仕事を始めた。あれからずいぶん時が過ぎて、小林功のデビューCDをプロデュース・録音することになった。
新潟の小出郷文化会館でやっと出遭った骨董家具のような独自の響きを持ったベヒシュタイン。この魅力的なピアノは、ベルリンのフィルハーモニーにあったものだが、是非この楽器で、またすばらしいアコースティックを持ったこのホールで、彼の平均律の録音をしてみたいと願った。予てからの知り合いで、最高の録音技師である井口啓三氏の協力を得て2001年・2002年の夏に録音セッションが行われた。 かくして小林功による美しき『平均律』が誕生。聴くものをどこか懐かしい別世界へと誘い、恩師E.ピヒト=アクセンフェルト譲りのアカデミックなバッハ解釈と、ピアノ音楽としての美しさが見事に融合した新録音となった。リサイタルで常にバッハを弾き続けてきた小林功の長年に亘る活動が実を結んだ。

2006年7月21日に発売されたHERB Classicsレーベルの第一弾CD/小林功によるJ.S.バッハの世界~『平均律クラヴィーア曲集 第1&2巻』~は、レコード芸術8月号で特選盤に選ばれた。